「文学のまち大津」インタビュー:成安造形大学未来社会デザイン共創機構 宮崎瑛圭さん

更新日:2026年09月10日

 「文学のまち大津」インタビュー集。大津市内で文学に関する活動を続けている人を訪ねて取材をしています。

 大津市内唯一の芸術系大学、成安造形大学の未来社会デザイン共創機構で社会と学生を橋渡しする役割を担う宮崎瑛圭(みやざきてるよし)さん。4月23日の「サン・ジョルディの日」イベントを中心にお話を伺いました。

インタビュー

ー サンジョルディの日について ー

 「サン・ジョルディの日」とは、スペインのカタルーニャ地方の古い伝説を背景に、毎年4月23日に、大切な人に本とバラを贈り合うという風習です。こうした素敵な文化を多くの人に知ってもらうことを目的に、カタルーニャ州政府と連携し「サン・ジョルディの日」を伝えるイベントを成安造形大学で開催しています。

 風習の元になった「サン・ジョルディ伝説」というのは、村を襲うドラゴンを鎮めるために生贄にされる姫を騎士ジョルディが救い出すというお話です。倒したドラゴンの血からバラが咲いて、そのバラを一輪、騎士が姫に差し上げたという逸話が現在の風習に結びついています。簡単に言うと、バレンタインのチョコレートに代わって本とバラを贈り合う日、といったところです。

 本学の客員教員、由井真波先生がお仕事や研究のつながりの中でカタルーニャ州政府の方とのご縁があり連携がスタートしました。初年度は学内でできるイベントを学生と考えるところからはじまり、学内のコミュニティスペースを会場に2年間継続してイベントを開催しています。

 イベントのコンテンツとしては、本をブックカバーで見えなくした状態で、バラのデザインのメッセージカードに書かれた贈り手からのメッセージだけを見て本を選ぶ、ブラインドブックス企画が好評でした。選んだ本はバラの花と一緒に持ち帰ることができるのですが、学内でも本好きな学生は多く、毎年100冊くらいの本とバラが参加者の手に渡りました。学内でバラを持って歩いている学生がいると、すごく華やかな雰囲気になりますね。会場のコミュニティスペース内のカフェは、地域の人も普段からランチなどに利用してもらっているので、ふらっとイベントに立ち寄っていただいた方にも徐々に「サン・ジョルディの日」が浸透し始めています。

サンジョルディの日_01
成安造形大学 宮崎さん

 

 

サンジョルディの日_2

ー さらなる発展を求めて ー

 「サン・ジョルディの日」のイベントの1年目は学内だけのイベントでしたが、2年目には県外も含めて5カ所以上の書店やコミュニティに広がりました。この文化をさらに広げていくためにも、「文学のまち大津」と絡めて大津市と一緒に何かできないかと話しているところです。2025年11月の「湖都の葉マルシェ」に出店させてもらったのもその一環です。もっと多くの人に「サン・ジョルディの日」を知って、楽しんでもらう機会を増やしていくことが次のミッションになりそうですね。

 学内のイベントでは文化を伝える手段として、現地の方の「サン・ジョルディの日」の想い出を漫画にして伝えるという企画がありました。文字だけでなく、漫画という表現方法により直感的に伝えるという試みは、芸大らしい取り組みかと思います。この延長として、昨年の「湖都の葉マルシェ」でも、本にまつわる思い出を4コマ漫画にしてしおりにするというワークショップを開きました。

ー 「文学のまち大津」とのコラボレーション ー

 これらのアプローチを発展させて、例えば大津の文学やそれらに関わる活動をされている方を取材して4コマ漫画に仕上げ、ノベルティやのぼり旗に展開し、商店街やイベント会場の装飾に活用してはどうか、というアイデアも出ています。学生にとっても大津の文学を知り、表現するトレーニングになりますし、街中に表出することでより多くの人が文学にまつわるストーリーを視覚的に体感できるようになるのではないでしょうか。

 「マンガ・バルセロナ(Manga Barcelona)」というイベントが毎年12月にバルセロナで開催されていて、日本で言うコミケイベントなんですが、マンガやアニメ、日本文化に関する展示やステージ、ワークショップなどが行われ、近年では16~17万人規模の来場者を集めています。バルセロナでは日本のマンガや表現が非常に注目されていて、カタルーニャ州政府との連携の延長で、由井先生率いる大学OBメンバーがマンガ作りのワークショップを出展したり、大学での 「サン・ジョルディの日」イベント告知ポスターの原画もその会場で展示されるなどのコラボレーションも実現しました。

 大津の歴史、文化などを漫画で表現できれば、こうしたイベントを通じて海外への発信にも繋がるのではないでしょうか。バルセロナは「ユネスコ創造都市ネットワーク・文学分野」に加盟する文学都市なので、大津市にとってもこうした交流は情報発信のきっかけになりそうです。

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サンジョルディの日_4
サンジョルディの_5

 

 

ー 地域貢献の取り組み ー

 私自身は、大学内の「未来社会デザイン共創機構」という研究機関の事務局員として、地域・企業・行政と大学をつなぐコーディネーターを担っています。学生と連携したい、という外部からのリクエストに対し、芸大としてどう課題解決に貢献できるかを研究者の先生方と一緒に考えて企画を整え、学生と共に企画を遂行していく仕事です。なぜ芸大がこうした外部に開いた活動をしているかというと、芸大を卒業した学生がどのように社会で活躍するのか、社会の側も、在学する学生もなかなかイメージしづらい、認知されていないという課題があるからです。学生と社会との接点をつくることで、芸術がどのように社会課題に貢献できるかを研究・発信し、学生にとっても大学で培った能力や表現を社会に活かす経験や実感を掴んでもらいたいと考えています。そのための窓口や研究機関として「未来社会デザイン共創機構」が誕生しました。

 窓口への相談の件数は増加傾向にあり、近年は年間60〜80件程度相談を頂くようになりまして、芸大への期待や認知は広がってきているように感じます。一方で成安造形大学は1000人程度の小さな大学なので、すべてのご相談をお受けすることは難しく、どんな連携が社会にとって、学生にとって大切なのかを考える必要が出てきました。宣伝広告や話題作りなどプロのデザイナーやアーティストが活躍する分野では成長過程の学生の力では期待に応えられないこともありますが、まだ答えのない社会課題に対しては学生のアイデアが新しい活路を開く可能性や、芸術という分野がどう貢献できるか、研究する余地があると考えています。そうした課題に前向きに取り組み、学生と一緒に考えて挑戦してくださるパートナーとの「共創」が生まれる機会を作っていきたいです。

ー 学生からの反応 ー

 サン・ジョルディ企画の1年目に関わった学生からは、「まさか自分のイラストが海外の方にも評価されるとは思ってもいなかった」「専攻しているイラスト表現以外に、イベントの装飾として立体造形に挑戦する機会が得られてよかった」といったコメントもあり、手応えを感じている様子でした。こうした実績や達成感を就職やその後のキャリアにも活かしてくれていると思います。連携先の企業にそのまま就職したり、授業外での活動や成果物が評価されて就職につながる例も出てきています。

成安造形大学 未来社会デザイン共創機構_01
成安造形大学 宮崎さん_04
成安造形大学 未来社会デザイン共創機構_02

 

 

ー この仕事についたきっかけ ー

 自分自身も、学生時代の地域活動が原点です。建築学科の学生として、課外活動でとある地域の空き家の活用企画や改修をしていたのですが、自分が学んだ専門性や個性が地域の力になって受け入れられた感覚が、社会に出る自信や自分の役割を明確にするきっかけになりました。そういう体験や環境を増やしていけるといいなというのと、滋賀県が好きなので、滋賀県の中で同じ目線の仲間が増えると自分自身の人生も豊かになると思いました。大学卒業後は関わった地域に住みながら近くの工務店で設計の仕事をし、数年後その地域の企業に転職しました。地域の一員として今度は後輩の学生を見守りつつ、受け入れる側になる経験もしてきました。さらに数年後成安造形大学に移って今の仕事をしていますが、大学と地域との連携において、あらゆる視点から関わってきたことが強みになっていると感じています。

ー 仕事のやりがい ー

 学生が達成感や手応えを感じてくれている様子や、関わった地域や企業の方々が学生を心から評価してくれている様子にやりがいを感じます。そのプロジェクトの成果の大小というよりも、関わった人たちに変化があったかどうかに興味があります。テーマとなった課題がスッキリ解決することは稀ですが、学生と関わる中で地域や企業の方も何か気付きを得て次に繋げてくださったり、学生も次のモチベーションを見つけてくれる瞬間があり、そうした機会を生み出していきたいですね。

サンジョルディの日_04

 

 

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ー 将来の夢 ー

 何かしら自分の力を活かして、滋賀の地域には関わり続けていくと思います。身の回りに自分と同じように、地域に愛着を持って課題に取り組む人たちが増えていって、滋賀のどこに行っても関わりのある人たちが頑張っているという環境が自分にとって居心地が良いんだと思います。自身が地域に関わり続けることで、自然と頑張っておられる人とのネットワークが広がっていく実感があります。都会ではもっとたくさんのサービスが乱立しているんですが、それがどういう思いで始まって、誰の想いが詰まっているのかが見えないことが多く、私にとっては共感して享受するのが難しいことがあります。そういったサービスや体験に触れるよりも、自分に関わりのある人たちの中で暮らせる未来を選んでいきたいです。

 大津市が取り組んでおられる大津を文学のまちにしていくというミッションも、答えのない重要な課題です。また、文学にまつわる地域資源と大津に愛着を持って活動されている方がたくさんおられるかと思います。一方で成安造形大学の学生も、言葉の表現や漫画など文学に関わるクリエイターでもあるので、私自身も地域と学生をつなぐコーディネーターとして良い共創を生み出せるよう力になれればと思います。

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