「文学のまち大津」インタビュー:株式会社アチェロ 代表取締役・田村由記子さんと社員の皆さん

更新日:2026年09月28日

 「文学のまち大津」インタビュー集。大津市内で文学に関する活動を続けている人を訪ねて取材をしています。

 大津市を拠点に、世界で生まれた絵本を日本の読者へ届けている株式会社アチェロ。

 海外作品の選書から、翻訳者への依頼、編集、デザイン、印刷・製本の手配、さらに書店や図書館への営業まで。一冊の本が読者に届くまでの工程を一貫して手がけています。編集プロダクションとして携わった仕事を含め、これまでに制作した書籍は200冊以上にのぼります。

 海の向こうで生まれた絵本が、大津で日本語の一冊になるまでには、どんな仕事があるのでしょうか。代表取締役の田村由記子さんと、編集・デザインを担当する社員の皆さんに、本づくりの現場と、そこに込める思いを伺いました。

インタビュー

社長のお話

― 「アチェロ」の由来 ―

 「Acero(アチェロ)」は、イタリア語でカエデ(楓)を意味します。社名を考えてくださったのは、東京大学名誉教授の安藤直人先生と、京都大学名誉教授の高部圭司先生です。

 カエデの種はプロペラのような形をしていて、風にのると、くるくると回りながら遠くまで飛んでいきます。私たちがつくる本も、この種のように、ここから遠くの誰かへ届いてほしい。その姿を社名に重ねました。

 もう一つ、カエデは季節によって姿を変える木でもあります。時代や環境に合わせて、会社も柔軟に変わり続けていく。

 「アチェロ」という名前には、本を届けることと、変化を恐れず進むこと、その二つの思いを込めています。

(高部圭司先生の「高」は、はしご高です。)

― 世界の絵本を探すところから ―

 本づくりは、まず「どの作品を日本の読者に届けるか」を選ぶところから始まります。海外の出版社や、作品の版権を扱うエージェントから届く数多くの作品に目を通し、日本で出版する絵本を選びます。

 編集を受託する場合は、依頼元の出版社が目指す方向をふまえて作品を選定。その後、翻訳者への依頼、編集、デザイン、刊行までを担当します。

 自社で企画・出版する本も幅広く、2歳くらいから楽しめる作品があれば、高校生や大人にも手に取ってほしい作品もあります。物語そのものを楽しむ本、読み終えたあとに問いや余韻が残る本。年齢の枠を越えて、「日本の読者に届けたい」と思える一冊を探しています。

 世界には、まだ日本で紹介されていない絵本が数多くあります。その中から出会った作品を選び、日本語の翻訳絵本として形にしていく。それがアチェロの本づくりです。

株式会社アチェロの皆さん

 

 

株式会社アチェロ 出版物
アチェロ田村社長と愛犬

 

 

編集担当のお話

― 一つの言葉を何度も考える ―

 作品が決まると、その作品に合う翻訳者へ翻訳を依頼します。届いた訳文は、原文と照らし合わせながら、一文ずつ丁寧に確認していきます。

 訳文では、まず意味が正確に伝わっているかを確かめます。さらに、どのくらいの年齢の読者に向けた本なのか、声に出したときに日本語として自然に響くか、作者が選んだ言葉だけでなく文章の調子まで伝わっているか。いくつもの角度から、一つひとつの言葉を見つめます。

 絵本は文章が短いからこそ、一つの言葉、一行の長さでページの印象が大きく変わります。絵との位置関係や、ページをめくるタイミングまで考えながら、言葉を整えていきます。

 翻訳者とも、「この言葉なら原文の感じが残るのではないか」「こちらのほうが日本語として自然ではないか」と何度もやり取りを重ねます。わずかな違いを確かめるため、短い一文を何度も読み直し、言葉を選び直すこともあります。

 編集の仕事は訳文を整えるだけではなく、本の紹介文や書誌情報の作成、図書館への営業など、刊行後に読者へ届けるところまで続きます。

デザイン担当のお話

― 原書の魅力を、日本語のページに ―

 翻訳された言葉を、今度は「日本語のページ」として成立させるのがデザインの仕事です。原書が持つ魅力や雰囲気をできるだけ生かしながら、日本語が無理なく自然に読めるページへと仕上げていきます。

 アルファベットと日本語では、文字の形も文章の長さも異なります。そのため、タイトルの文字、フォント、大きさ、行間、改行の位置まで細かく調整し、絵と文字が最も心地よく見えるバランスを探ります。

 手がける範囲は、本そのものから、その本を読者に見つけてもらうためのものへと広がります。表紙や帯、中面の文字組みに加え、書店で使うPOPやパネル、注文書、リーフレット、自社オンラインショップの商品ページなども制作します。

 一冊の世界観を守りながら、書店やオンラインで「見つけてもらう」ための見せ方まで考える。それもデザイン担当の大切な仕事です。

株式会社アチェロ_湖都の葉マルシェ2025ブース
株式会社アチェロ_湖都の葉マルシェ2025_2

 

 

株式会社アチェロ_湖都の葉マルシェ_3

再び社長のお話

― 大津で本をつくる ―

 出版社の多くは東京にありますが、今はオンラインで打ち合わせができ、原稿やデザインのデータもすぐに共有できます。大津に拠点を置き、必要なときには東京へ足を運んで直接話す。場所にとらわれず、その時々に合った方法で本づくりを進めています。

 拠点は大津に置きながら、仕事でつながる相手は世界各地、そして全国に広がっています。海外の出版社や翻訳者、国内の出版社、印刷会社など、さまざまな場所にいる人たちと一冊の本をつくっています。

 滋賀には、県外で経験を積んだあと、地元に戻って働く人もいます。そうした経験や力を、地元にいながら生かせる仕事や会社がもっと増えていけば、大津で働くことの選択肢も広がっていくと思います。

― 本屋さんで生まれる出会い ―

 本をつくるところから、読者へ届けるところまで携わっているからこそ、本と人が出会う「本屋さん」という場所にも強い思いがあります。出版を取り巻く環境が変わるなか、出版社と書店の間で流通を担う「取次」の仕組みも変化しています。

 だから私は、本屋さんがもっと増えてほしいと思っています。

 本屋さんには、目的の本を買うだけではない楽しさがあります。探していた本の隣にある一冊が気になったり、表紙にひかれて思わずページを開いたりする。予定していなかった本との出会いが生まれるのは、実際に本が並ぶ場所ならではの魅力です。

 一方で、新しく本屋さんを始めるには、店舗や仕入れなどに初期費用がかかります。そうした負担を少しでも軽くできる仕組みがあれば、「本屋をやってみたい」と考える人の挑戦を後押しできるのではないでしょうか。

― 翻訳者の最初の一冊をつくる「PINO」 ―

 さらに、本をつくる人の「最初の一歩」を生み出す取り組みとして、翻訳絵本出版レーベル「PINO」も運営しています。

 PINOは、絵本翻訳を学んできた方が海外絵本を翻訳し、自分の名前が入った訳書という実績をつくる、制作費ご負担型のレーベルです。翻訳者は、編集者と何度も原稿をやり取りしながら、日本語版を一冊の本として仕上げていきます。学んできた翻訳を、実際の出版物にするまでの工程を経験できるのが特徴です。

 最初の一冊が実績になり、そこから次の翻訳の仕事へつながっていく。新しい翻訳者が活動を始める、その入口をつくりたいと考えています。

― 「文学のまち大津」で本に関わる人がつながる ―

 一冊の本が生まれ、読者の手に届くまでには、実に多くの人が関わります。読む人、書く人、翻訳する人、編集する人、デザインする人、印刷する人、売る人、そして図書館を通して届ける人。それぞれの仕事がつながって、ようやく本は読者のもとへ届きます。

 「文学のまち大津」が、本を読む人も、本をつくり届ける人も出会える場所になればうれしいです。イベントで知り合った人たちが一緒に仕事を始めたり、そこから新しい本や活動が生まれたりする。そんなつながりが、大津の中で少しずつ広がっていくことを期待しています。

 出版社の仕事の土台にあるのは、原稿を読み、言葉を選び、文字の位置を調整し、印刷や流通を手配するといった細かな作業です。その一つひとつを積み重ねた先に、一冊の本が生まれます。

 海外で生まれた、まだ日本では知られていない絵本を、大津で日本語の一冊にする。

 これからも、目の前の一冊を丁寧につくりながら、絵本との新しい出会い、そして本を通じた人と人とのつながりを、大津から生み出していきたいと思っています。

インタビューを終えて

 社名の由来から日々取り組んでおられる仕事のこと、そこに込められた想いの数々を聞かせていただきました。さらに書店を始めたい人や「文学のまち大津」に関わる人々へと、幅広くエールを送っていただいたことに、感銘を受けました。

 中でも「PINO(ピノ)」という新しいレーベルは、これから翻訳者としてデビューする人の最初の一歩を提供するという素晴らしい取り組みです。このレーベルから、ここ大津から、美しい絵本たちが誕生することを期待したいですね。

この記事に関するお問い合わせ先

市民部 文化振興課 
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